トーカロ(3433)
トーカロは、溶射などの表面改質(表面処理)を主体とする金属加工会社です。
現在、世界的に半導体需給の逼迫が続いています。昨年秋口を境に需要が強く喚起され、かつてないほどの増産投資に動く半導体メーカーが相次ぐなか、製造装置メーカーにとっても強烈な追い風が吹き始めています。
そこで今回は、半導体製造装置部品向けなどを中心に表面処理加工を手掛けている、トーカロを取り上げ、同社の株価や業績の将来性を詳しく分析していきます。
1. 会社概要
トーカロは昭和26年に東洋カロライジング工業(株)として誕生しました。昭和33年には溶射技術を導入、コア事業とする事で表面改質分野のトップメーカーとして発展し現在も常に世界のトップランナーとして走り続けています。
2004年には日本コーティングセンターを傘下に置くことで薄膜技術を領域に加え、2006年10月には中国広州市で子会社の本格操業を開始し、多くの海外企業とのオールラウンドで国際的な展開を推し進めてきました。
同社の沿革は、以下のとおりです。
1951年:神戸市で東洋カロライジングエ業株式会社として発足
1959年:東京工場を新設
1981年:トーカロ株式会社に商号変更。北関東営業所を開設。PTAプロセスの操業開始
1985年:海外企業への技術供与開始
1990年:商品開発部を溶射技術開発研究所に改称
1996年:本社新社屋竣工。株式店頭登録。資本金7億9,514万円
2001年:1月30日から3月5日までの期間、ジャフコ・エス・アイ・ジー株式会社が当社株式を公開買付けし、同社の親会社となる
8月1日付けでジャフコ・エス・アイ・ジー株式会社が旧トーカロ株式会社を吸収合併商号はトーカロ株式会社となり同日付けで店頭登録を廃止
2003年:東京証券取引所市場第二部に上場
2004年:日本コーティングセンター株式会社の全株式を取得
2005年: 東京証券取引所市場第一部に上場
2018年:東京第二工場(現、東京工場鈴見事業所)を新設
2. 事業の特徴
同社は高機能皮膜を形成する溶射加工の最大手で、半導体、液晶製造装置部品向けが主力ですが、鉄鋼や宇宙開発、エネルギー、医療関連などでも展開しています。
また、溶射加工では半導体メーカーの設備投資拡大を追い風に、利益率の高い半導体・FPD関連を中心として業績も好調に推移しているようです。
最新決算である2022年3月期第2四半期決算短信(連結)の売上高は210億9,800万円。※2021年10月29日
各事業セグメントの売上高・内容などは以下のとおりです。
※2022年3月期第2四半期決算短信(連結)
① 溶射加工(単体)
② 国内子会社
③ 海外子会社
④ その他表面処理加工
① 溶射加工(単体)
産業機械分野の受注は在庫調整の影響を脱しきれず期初予想を下回ったものの、半導体・FPD、鉄鋼、その他の分野は期初予想を上回る水準で推移したようです。
これらの結果、当セグメントの売上高は前年同期比10億3,400万円(6.9%)増の160億円、セグメント利益(経常利益)は同5億6,800万円(16.7%)増の39億7,800万円となっています。
② 国内子会社
国内子会社(日本コーティングセンター株式会社)は、自動車部品や建設機械メーカー向け切削工具の受注が堅調に推移したようです。
これらの結果、当セグメントの売上高は前年同期比3億1,300万円(35.1%)増の12億600万円、セグメント利益(経常利益)は同1億2,200万円(100.1%)増の2億4,500万円となっています。
③ 海外子会社
中国での石油分野の受注が低調に推移したものの半導体・FPD関連は概ね好調であったようです。
これらの結果、当セグメントの売上高は前年同期比4億900万円(18.6%)増の26億1,500万円、セグメント利益(経常利益)は同8,400万円(14.0%)増の6億8,900万円となっています。
④ その他表面処理加工
溶射加工(単体)、国内子会社、海外子会社以外のセグメントについては、総じて受注が回復傾向となったようです。
これらの結果、売上高は前年同期比1億6,600万円(16.1%)増の11億9,500万円、セグメント利益(経常利益)は同1億7,500万円増(4.5倍)
の2億2,400万円となっています。
3. 会社規模
会社規模は、以下のとおりです。
・時価総額: 961億2,700万円 ※2021年11月16日終値ベース
・総資産: 664億3,000万円 ※2022年3月期第2四半期
・資本金: 26億5,800万円 ※2022年3月期
・売上高: 210億9,800万円 ※2022年3月期第2四半期
・従業員数: 1,121名(連結) ※2021年3月期
4. 業績
過去2年間の業績は次のとおりです。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2019年3月 | 39,558 | 7,741 | 8,076 | 5,441 | 89.5 | 30 |
2020年3月 | 37,896 | 6,550 | 6,812 | 4,404 | 72.5 | 25 |
2021年3月期(2020年4月1日~2021年3月31日)の業績は、以下のとおり。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2021年3月 | 39,073 | 8,669 | 8,914 | 5,463 | 89.9 | 35 |
最新決算である2022年3月期第2四半期決算短信(連結)は以下のとおり。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 | 1株益(円) |
---|---|---|---|---|---|
2022年3月 | 21,098 | 5,111 | 5,222 | 3,448 | 56.72 |
株価・株価指標は以下のとおりです。
・株価:1,521円(2021年11月16日終値)
・予想PER:14.01倍 ※2022年3月期の予想EPS108.54より算出
・実績PBR:1.98倍 ※BPS766.75(2021年3月期)
・予想配当利回り:2.63% ※2022年3月期40円予想
・年初来高値:1,634円(2021年1月14日)
・年初来安値:1,214円(2021年10月14日)
5. 財務分析
BS・PL・CS分析から、トーカロの現状を把握します。2021年3月期と2022年3月期第2四半期決算の数字で検討します。
① BS分析
まずは、貸借対照表(Balance Sheet)です。見るべきポイントは以下の4つ
※2022年3月期第2四半期決算
・総資産 664億3,000万円
・自己資本比率 70.2%
・有利子負債 50億7,300万円 ※十万円以下切り捨て
・利益剰余金 419億2,200万円 ※十万円以下切り捨て
総資産を確認することで、その会社の規模がわかります。
一般的には自己資本比率が40%以上あれば倒産しにくいと言われています。
同社は有利子負債が50億7,300万円ありますが、自己資本比率は70.2%と7割を超えています。
また実績PBRは1.82倍ですが、利益剰余金は419億2,200万円とプールも潤沢です。
財務的には、まず大きな問題はないと考えられます。
② PL分析
損益計算書(Profit and Loss Statement)は売上高・営業利益・当期純利益も確認しましょう。
今期(2022年3月期第2四半期)の売上高を、2021年度3月期第2四半期の売上高192億500万円と比較すると9.9%も増加しています。
③ CS分析
キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)は、非常に重要な財務諸表です。
CSを見れば会社の現状が簡単にわかります。
※キャッシュフローの構造
・営業活動によるキャッシュフロー:営業活動で現金を生み出しているか否かがわかる
・投資活動によるキャッシュフロー:固定資産の売買・有価証券の売買などがわかる
・財務活動によるキャッシュフロー:資金調達の有無。借入金の実行・返済がわかる
<営業活動によるキャッシュ・フロー> ※2021年3月期
営業活動の結果得られた資金は、前期比39億6,600万円(59.9%)増の105億8,800万円となっています。
収入の主な内訳は、税金等調整前当期純利益85億6,600万円、減価償却費27億7,100万円、売上債権の減少額11億4,900万円であり、支出の主な内訳は、法人税等の支払額15億9,800万円によるものとしています。
本業でしっかり稼げているようです。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>
投資活動の結果使用した資金は、前期比3億9,800万円(9.4%)増の46億1,500万円となっています。 支出の主な内訳は、溶射加工(単体)セグメントを中心とした有形固定資産の取得による支出43億4,800万円によるものとしています。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>
財務活動の結果使用した資金は、37億9,800万円(前期は18億7,100万円の獲得)となっています。
支出の主な内訳は長期借入金の返済による支出20億8,300万円、配当金の支払額15億2,000万円によるものとしています。
現金及び現金同等物は、前期より21億7,500万円増加し186億7,200万円となっています。
6. トピック:トーカロの強味 7つの溶射技術
同社は微粒子を吹き付けることによって、加工対象物の表面に高機能皮膜を形成する技術を強味としています。
① 減圧プラズマ溶射
減圧下で雰囲気調整したチャンバー内で行うプラズマ溶射法。
② 大気プラズマ溶射
10,000℃を超える高温のプラズマジェットを利用した溶射法。
③ アーク溶射
アーク放電を発生させ、その熱で溶融された微粒子を加工対象物に吹き付ける溶射法。
④ 高速フレーム溶射
高速で材料を噴射する溶射法です。緻密で高密着力の皮膜を形成。
⑤ 粉末式フレーム溶射
無気孔に近い緻密な皮膜が形成できる溶射法。
⑥ 溶棒式フレーム溶射
棒状に加工したセラミックロッドを、溶射して皮膜を形成させる溶射法。
⑦ 溶線式フレーム溶射
金属、合金のワイヤー材料をアセチレンなどの熱源を用いて溶融噴射する溶射法で肉盛厚みが10mm程まで施工可能。
2022年3月期の業績予想は、以下のとおりです。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2022年3月 | 42,500 | 10,100 | 10,200 | 6,600 | 108.54 | 40 |
7. まとめ
今回はトーカロを分析しました。
株価は1,521円(2021年11月16日現在)で時価総額も961億2,700万円(2021年11月16日現在)と値動きは極端に重い銘柄ではありません。
実績PBRは1.98倍(2021年11月16日現在)、同社の予想PERは14.01倍(2021年11月16日現在)また、東証一部の金属製品における平均PERは18.77倍(2021年11月16日現在)です。
ファンダメンタルズでは、PBRこそ割高指標ですが、PERはまだ割安水準にあると考えられます。
また同社は、2021年10月29日に2022年3月期連結業績の上方修正と、配当予想の増額を発表しました。上方修正の主な要因は、半導体関連を中心に引き続き予想を上回る水準で推移することが見込まれるためとしています。
今後も半導体需要の高まりが想定されるため、同社は2~4年間など長期的な投資が向いていると思います。好調な業績に加え、半導体関連としての頭角を現し始めた同社の行方には要注目です。