日本トムソン(6480)

日本トムソンは、半導体製造装置等向け直動案内機器の大手メーカーです。
世界的に半導体需給の逼迫が続き、かつてないほどの半導体生産設備投資の拡大を背景に、同社は高水準の受注を獲得しています。
そこで今回は、半導体製造装置向けを中心に強烈な追い風が吹いている、日本トムソンを取り上げ、同社の株価や業績の将来性を詳しく分析していきます。

1. 会社概要

日本トムソンは1950年に設立以来、社会に貢献する技術開発型企業という経営理念のもと、重要要素である各種機械のベアリングおよび関連機器などを中心として販売してきました。 また、国内で初めてニードルベアリングの開発にも成功、その高度な技術を活かし、多様化するニーズに対応する高品質な製品を世界にも展開しています。

同社の沿革は、以下のとおりです。


1950年:軸受等の販売を目的として、愛知県名古屋市に大一工業株式会社を設立

1956年:針状ころ軸受(ニードルベアリング)の研究開発に着手。 日本トムソンベアリング株式会社と業務提携し、ニードルベアリングの販売を開始

1963年:IKO(アイ ケイ オー)を同社ブランドとして商標登録。社名を日本トムソン株式会社に変更し株式を東京証券取引所市場第二部に上場

1967年:大阪証券取引所市場第二部に上場

1968年:東京・大阪証券取引所市場第一部に指定替え

1971年:米国・イリノイ州に IKO INTERNATIONAL, INC.を設立(現連結子会社)

1987年:グッドデザイン賞(通商産業省)をリニアウェイLWA、アンギュラ形ボールスプラインLSA、精密位置決めテーブルCT220/220Aで受賞

2002年:機械工業デザイン賞(日刊工業新聞社主催)をナノリニアNTで受賞

2005年:第2回モノづくり部品大賞(日刊工業新聞社主催)の「機械部品賞」をCスリーブリニアウェイ・フリーコンビネーション仕様で受賞

2007年:第4回モノづくり部品大賞(日刊工業新聞社主催)の「機械部品賞」をリニアローラウェイスーパーX LRXD10…SLで受賞

2013年:第六工場棟、土岐工場棟にて太陽光発電事業を開始

2017年:中国のベアリング製造・販売会社である優必勝(上海)精密軸承製造有限公司および優必勝(蘇州)軸承有限公司を子会社化(現連結子会社)

2. 事業の特徴

中国向けが業績のV字回復を牽引しており、半導体、医療機器、太陽光向けも活況となっています。 前期増設したベトナム工場もフル稼働中、さらに円安も追い風になっているようです。 また、コロナ対応でバーチャル工場見学も開始しています。
最新決算である2022年3月期第2四半期決算短信(連結)の売上高は300億9,000万円。 ※2021年11月12日

事業セグメントの売上高・内容などは以下のとおりです。
なお、セグメントについて同社グループは、軸受等ならびに諸機械部品の製造販売を主な単一の事業として運営しているため、事業の種類別セグメントおよび事業部門は一括して記載しています。 ※2022年3月期第2四半期決算短信(連結)

販売面については、デジタルツールを活用した既存顧客との取引深耕をはじめ、中期経営計画における戦略製品の販売拡大や新規案件発掘に注力するとともに、高水準の受注が続く中で生産部門との連携を密にし、納期対応力の強化に努めたようです。
製品開発面については、『リニアモータテーブルLT』の高推力仕様や『ナノリニアNT』の対応ドライバを追加するなど、コンパクトで高い位置決め精度を持つリニアモータ駆動のメカトロ製品を拡充し、多様化するニーズに即した高付加価値製品の充実を図ったようです。
生産面については、急増する受注動向を受け、国内工場や生産子会社であるIKO THOMPSON VIETNAM CO.,LTD.において供給体制の整備を行い、サプライチェーンを含めた当社グループ全体での効率的な生産体制の構築に取り組んだようです。

同社グループの営業状況について、国内市場においては、半導体製造装置や電子部品実装機等のエレクトロニクス関連機器や工作機械向けを中心に売上高は増加しています。北米地域でも、エレクトロニクス関連機器や医療機器・精密機械等の一般産業機械、市販向け等を中心に売上高は増加しています。欧州地域においても、エレクトロニクス関連機器や一般産業機械、市販向け等を中心に売上高は増加しています。
さらに中国では、需要が全般的に回復し、売上高は大幅に増加したようです。その他地域でもASEANや韓国等の需要が回復し、売上高は増加しています。
これらの結果、当第2四半期連結累計期間の売上高は300億9,000万円(前年同期比48.5%増)となっています。収益面については、増収・増産効果等により、営業利益は22億5,700万円(前年同期は営業損失7億4,800万円)、経常利益は25億3,300万円(前年同期は経常損失7億5,700万円)、四半期純利益は21億7,100万円(前年同期は四半期純損失5億8,800万円)となっています。
また、当第2四半期連結累計期間における針状ころ軸受および直動案内機器等(以下「軸受等」)の生産高(平均販売価格による) は263億7,900万円(前年同期比44.4%増)となり、軸受等ならびに諸機械部品の受注高は385億3,900万円(前年同期比107.1%増)となっています。

3. 会社規模

会社規模は、以下のとおりです。

・時価総額: 507億8,900万円 ※2021年11月30日終値ベース
・総資産: 1,080億5,400万円 ※2022年3月期第2四半期
・資本金: 95億3,300万円 ※2022年3月期
・売上高: 300億9,000万円 ※2022年3月期第2四半期
・従業員数: 2,456名(連結) ※2021年3月期

4. 業績

過去2年間の業績は次のとおりです。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2019年3月 57,570 4,883 5,325 3,718 52.0 15
2020年3月 47,457 1,341 1,268 -185 -2.6 12.5

2021年3月期(2020年4月1日~2021年3月31日)の業績は、以下のとおり。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2021年3月 44,342 -559 225 215 3.0 8

最新決算である2022年3月期第2四半期決算短信(連結)は以下のとおり。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円)
2022年3月 30,090 2,257 2,533 2,171 30.62

株価・株価指標は以下のとおりです。

・株価:691円(2021年11月30日終値)
・予想PER:11.67倍    ※2022年3月期の予想EPS59.22より算出
・実績PBR:0.80倍    ※BPS867.36(2021年3月期)
・予想配当利回り:1.88%  ※2022年3月期13円予想
・年初来高値:758円(2021年11月17日)
・年初来安値:376円(2021年1月4日)

5. 財務分析

BS・PL・CS分析から、日本トムソンの現状を把握します。2022年3月期第2四半期決算の数字で検討します。

① BS分析

まずは、貸借対照表(Balance Sheet)です。見るべきポイントは以下の4つ

※2022年3月期第2四半期決算

・総資産     1,080億5,400万円
・自己資本比率      57.0%
・有利子負債   286億3,600万円 ※十万円以下切り捨て
・利益剰余金   363億5,300万円 ※十万円以下切り捨て

総資産を確認することで、その会社の規模がわかります。
一般的には自己資本比率が40%以上あれば倒産しにくいと言われています。
同社は有利子負債が286億3,600万円ありますが、自己資本比率は57.0%と5割を超えています。
また実績PBRは0.80倍、利益剰余金も363億5,300万円とプールもしっかりあります。 財務的には、まず問題はないと考えられます。

② PL分析

損益計算書(Profit and Loss Statement)は売上高・営業利益・当期純利益も確認しましょう。
今期(2022年3月期第2四半期)の売上高を、2021年度3月期第2四半期の売上高202億5,800万円と比較すると48.5%もの増加となっています。

③ CS分析

キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)は、非常に重要な財務諸表です。
CSを見れば会社の現状が簡単にわかります。

※キャッシュフローの構造
・営業活動によるキャッシュフロー:営業活動で現金を生み出しているか否かがわかる
・投資活動によるキャッシュフロー:固定資産の売買・有価証券の売買などがわかる
・財務活動によるキャッシュフロー:資金調達の有無。借入金の実行・返済がわかる

<営業活動によるキャッシュ・フロー> ※2022年3月期第2四半期決算

営業活動により得られたキャッシュ・フローは、前年同期に比べ33億2,900万円増加し58億2,900万円となっています。これは主に、税金等調整前四半期純利益25億3,300万円、減価償却費19億4,400万円、仕入債務の増加額30億9,300万円等による収入項目と、売上債権の増加額25億7,700万円等の支出項目との差額によるものとしています。


<投資活動によるキャッシュ・フロー>

投資活動により支出されたキャッシュ・フローは、前年同期に比べ1億1,300万円減少し12億4,200万円となっています。これは主に、有形固定資産の取得による支出9億6,100万円等によるものとしています。


<財務活動によるキャッシュ・フロー>

財務活動により得られたキャッシュ・フローは、前年同期に比べ12億1,400万円減少し1億7,900万円となっています。 これは主に、長期借入れによる収入40億円等の収入項目と、短期借入金の返済による支出12億円、長期借入金の返済による支出22億1,300万円、配当金の支払額2億9,000万円等の支出項目との差額によるものとしています。
現金及び現金同等物は、前期より48億6,300万円増加し202億1,000万円となっています。

6. トピック:日本トムソンのブランド「IKO」

「IKO(アイケイオー)」は、高度な品質と高い付加価値により、産業界から広く評価を受け続ける日本トムソンのベアリングブランドです。ブランド名の「IKO」は、革新的(Innovation)で、高度な技術(Know-how)に立脚し、創造性(Originality)に富むという三つの信念の頭文字を取ったもので、IKOブランドの製品は、日本トムソン全社に浸透するこれらの信念のもとで開発・生産されています。

2022年3月期の業績予想は、以下のとおりです。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2022年3月 61,000 5,100 5,500 4,200 59.18 13

7. まとめ

今回は日本トムソンを分析しました。

株価は691円(2021年11月30日現在)で時価総額も507億8,900万円(2021年11月30日現在)と値動きも極端に重たい銘柄ではありません。
実績PBRは0.80倍(2021年11月30日現在)、同社の予想PERは11.67倍(2021年11月30日現在)また、東証一部の機械における平均PERは16.99倍(2021年11月30日現在)です。
ファンダメンタルズでは、PBR、PERともにまだ割安水準にあると考えられます。

また同社は2021年11月12日、アジア地域の需要回復を背景に、2022年3月期業績の上方修正を発表しました。さらに直近では、三井住友信託銀行や三井住友トラスト・アセットマネジメントなどが共同保有する形で5%超の大株主に浮上するなど、その注目度の高さもうかがえます。
今後もコロナ渦の動向と影響を見定めながら、同社は2~3年間など長期的な投資が向いていると思います。 半導体関連としての注目度の高さと、それに付帯する好調な業績期待が高まっている同社の行方には要注目です。