スクロール(8005)

スクロールは、主に国内における通信販売事業、eコマース事業などを展開する企業です。
コロナ渦による、雇用、所得環境の悪化やサプライチェーンの混乱などが続く中、通販業界においては、消費者の通販利用の増加傾向も観測されています。
そこで今回は、堅実な好業績、高配当に期待が高まるスクロールを取り上げ、同社の株価や業績の将来性を詳しく分析していきます。

1. 会社概要

スクロールは創業以来、安心と信頼に基づいた商品・サービスを提供するとともに、通信販売企業のパイオニアとして、業界の発展に寄与してきました。
近年では、「DMC(Direct Marketing Conglomerate)複合通販企業戦略」のもと、企業の持続的成長に向けた各種改革および投資を着実に推進し、強固で安定的な経営・事業基盤を整備しています。

また、2022年4月に予定されている東京証券取引所の市場区分の見直しにおける「プライム市場」への移行に向け、コーポレート・ガバナンスの強化にも取り組むことで、DMC複合通販企業戦略の次なるゴールを目指すとしています。

同社の沿革は、以下のとおりです。


1939年:浜松市でミシン6台の武藤洋裁所として創業

1943年:静岡布帛工業株式会社を設立

1951年:武藤商事株式会社を吸収合併し武藤衣料株式会社に社名変更

1954年:浜松市において、婦人会服「トッパー」の直接販売を開始

1967年:呉服展示会販売(京華展)を開始/ムトウ衣料株式会社に社名変更/衣料品カタログ「ムトウ総合 カタログ」を発行

1970年:株式会社ムトウに社名変更

1971年:日本生活協同組合との取引を開始/名古屋証券取引所市場に上場(現在廃止)

1973年:生協ダイジェストカタログを創刊

1984年:東京証券取引所市場第二部に上場

1986年:東京証券取引所市場第一部に上場/株式会社ミック設立(現:スクロール360)

1993年:個人通販用雑貨カタログ「生活雑貨」創刊

2008年:株式会社ミックの社名を株式会社ムトウマーケティングサポートに変更(現:スクロール360)

2009年:株式会社スクロールに社名変更

2020年:一般社団法人 スクロールダイレクトマーケティング研究所設立

2. 事業の特徴

スクロールは、生協向けカタログ通販からM&Aでネット通販等へ展開していますが、PB化粧品、物流等の受託を行っているのも特徴です。
巣ごもり特需が一歩後退する中、2023年3月期には新規顧客開拓が進む他、物流関係が上向く想定。 また、DtoCなど新規に通販を始める中小規模事業者向けの物流代行サービスも開始し、ECはキャンプ用品、家具のPB商品で扱うカテゴリーの拡充を視野に検討しているようです。
最新決算である2022年3月期第3四半期決算短信(連結)の売上高は623億5,900万円。 ※2022年1月28日
事業セグメントの売上高・内容などは以下のとおりです。 ※2022年3月期第3四半期決算短信(連結)

① 通販事業

② ソリューション事業

③ eコマース事業

④ 健粧品事業

④ 旅行事業

④ グループ管轄事業

① 通販事業

巣ごもり消費が落ち着きをみせるなか、新規媒体の企画や品揃えの拡充が奏功したことに加え、SCMコントロールにより供給率が向上したようです。これにより、売上が高い水準で推移しています。 また、商品調達方法の見直しによる原価率の低減や、効果的なカタログ配布による販促費の削減に取り 組むなど、事業効率の最大化を推進。

これらの結果、売上高は330億5,500万円(前年同四半期は333億1,800万円)となり、セグメント利益は57億2,100万円 (前年同四半期はセグメント利益56億5,300万円)となっています。

② ソリューション事業

第2四半期連結累計期間において、物流代行サービスにおけるクライア ントの物量が前年同四半期比で減少していた影響はあるものの、コロナ禍によって遅延していた営業活動が進展したことにより、新規クライアントの獲得が進んだ模様です。

また、決済代行サービスやメディア事業については堅調に推移し、今後更なる拡大が予想されるEC・通販市場におけるニーズに応えるべく、ソリューションメニューの強化・拡大及び全国通販3PL戦略の推進に向けた営業活動の強化に努めるとしています。

これらの結果、売上高は117億2,300万円(前年同四半期は130億4,000万円)となり、セグメント利益は2億8,800万円 (前年同四半期はセグメント利益6億7,700万円)となっています。

③ eコマース事業

消費者のEC利用率は上昇傾向であるものの、商材により需要動向が分かれていることに加え、業種・業態を越えた競争が激化。家具・インテリア等の在宅関連商品等、前年度好調に推移した商材における反動減がある一方、キャンプやフィッシング等のアウトドア関連商品は引き続き好調に推移しています。

これらの結果、売上高は159億1,600万円(前年同四半期は170億4,400万円)となり、セグメント利益は3億1,300万円 (前年同四半期はセグメント利益7億5,500万円)となっています。

④ 健粧品事業

事業成長及び収益化に向けて、主にECを中心とした顧客基盤の構築を進めているようです。なお、前年同四半期においては、コロナ禍において店舗向け卸事業に影響が生じています。
これらの結果、売上高は15億5,500万円(前年同四半期は20億3,700万円)となり、セグメント利益は1億500万円(前年同四半期はセグメント損失6億4,100万円)となっています。

⑤ 旅行事業

新型コロナウイルス感染症の再拡大を受けた緊急事態宣言の再発令やまん延防止等重点措置の影響を大きく受けたようです。
これらの結果、売上高は9,800万円(前年同四半期は1億3,400万円)となり、セグメント損失は5,300万円(前年同四半期はセグメント損失8,000万円)となっています。

⑥ グループ管轄事業

同社グループは物流オペレーションや自社保有物流施設等の不動産賃貸を行っています。
これらの結果、売上高は900万円(前年同四半期は600万円)となり、セグメント利益は1億5,500万円(前年同四 半期はセグメント利益1億7,100万円)となっています。なお、内部取引を含めた売上高は25億1,200万円(前年同四半期 は25億6,000万円)としています。

3. 会社規模

会社規模は、以下のとおりです。

・時価総額:322億9,200万円 ※2022年3月22日終値ベース
・総資産:486億3,000万円 ※2022年3月期第3四半期
・資本金:60億1,800万円 ※2022年3月期第3四半期
・売上高:623億5,900万円 ※2022年3月期第3四半期
・従業員数:893名(連結) ※2022年3月期第3四半期

4. 業績

過去2年間の業績は次のとおりです。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2019年3月 71,153 1,697 1,415 631 18.5 10
2020年3月 72,634 2,145 2,296 703 20.5 10

2021年3月期(2020年4月1日~2021年3月31日)の業績は、以下のとおり。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2021年3月 85,195 7,385 7,519 5,183 149.7 60

最新決算である2022年3月期第3四半期決算(連結)は以下のとおり。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円)
2022年3月 62,359 6,462 6,510 4,462 127.98

株価・株価指標は以下のとおりです。

・株価:925円(2022年3月22日終値)
・予想PER:6.87倍   ※2022年3月期の予想EPS134.8より算出
・実績PBR:1.12倍   ※BPS825.51(2021年3月期)
・予想配当利回り:5.83% ※2022年3月期54円予想
・年初来高値:1,485円(2021年2月18日)
・年初来安値:750円(2021年12月20日)

5. 財務分析

BS・PL・CS分析から、スクロールの現状を把握します。 2021年3月期決算と2022年3月期第3四半期決算の数字で検討します。

① BS分析

まずは、貸借対照表(Balance Sheet)です。見るべきポイントは以下の4つ

※2022年3月期第3四半期決算

・総資産     486億3,000万円
・自己資本比率      59.2%
・有利子負債      61億円 ※十万円以下切り捨て
・利益剰余金   156億300万円 ※十万円以下切り捨て

総資産を確認することで、その会社の規模がわかります。
一般的には自己資本比率が40%以上あれば倒産しにくいと言われています。
同社は有利子負債が61億円ありますが、自己資本比率は59.2%と5割を超えています。 また実績PBRは1.12倍、利益剰余金も156億300万円とプールもしっかりあります。 財務的に、大きな問題はないと考えられます。

② PL分析

損益計算書(Profit and Loss Statement)は売上高・営業利益・当期純利益も確認しましょう。
今期(2022年3月期第3四半期)の売上高を、2021年度3月期第3四半期の売上高655億8,100万円と比較すると約5%減となっています。

③ CS分析

キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)は、非常に重要な財務諸表です。
CSを見れば会社の現状が簡単にわかります。

※キャッシュフローの構造
・営業活動によるキャッシュフロー:営業活動で現金を生み出しているか否かがわかる
・投資活動によるキャッシュフロー:固定資産の売買・有価証券の売買などがわかる
・財務活動によるキャッシュフロー:資金調達の有無。借入金の実行・返済がわかる

<営業活動によるキャッシュ・フロー> ※2021年3月期決算

営業活動の結果獲得した資金は39億5,600万円(同151.4%増)となっています。これは主に、税金等調整前当期純利益などによるものとしています。
本業で稼げているようです。


<投資活動によるキャッシュ・フロー>

投資活動の結果使用した資金は33億1,200万円(同86.1%増)となっています。これは主に、有形固定資産の取得などによるものとしています。


<財務活動によるキャッシュ・フロー>

財務活動の結果獲得した資金は26億800万円(前年同期は4億3,300万円の使用)となっています。これは主に、長期借入れによる収入などによるものとしています。

現金及び現金同等物は、前期より32億5,500万円増加し80億8,400万円となっています。

6. トピック:5つの未来像

スクロールには、企業価値を見据えた5つの未来像があります。

① スクロールは、カタログ通販の既成概念を打破し、業界をリードする「ファッションEC企業」を目指します。

② スクロールは、M&Aや海外展開への積極的なチャレンジを続け、ダイナミックな「成長企業」を目指します。

③ スクロールは、有能でアクティブな人材を育成し、グローバルで洗練された感性を持つ「人材企業」を目指します。

④ スクロールは、常に変化を追い求め、日本において最も変化する「進化企業」を目指します。

⑤ スクロールは、社会貢献や環境保護活動に積極的に取り組み、尊敬される「社会企業」を目指します。


2022年3月期の業績予想は、以下のとおりです。

(単位:百万円)
年月 売上高 営業利益 経常利益 当期利益 1株益(円) 1株配(円)
2022年3月 80,000 6,700 6,800 4,700 134.8 54

7. まとめ

今回はスクロールを分析しました。

株価は926円(2022年3月22日現在)で時価総額も322億9,200万円(2022年3月22日現在)と値動きも極端に重たくはありません。
実績PBRは1.12倍(2022年3月22日現在)、同社の予想PERは6.87倍(2022年3月22日現在)また、東証一部の小売業における平均PERは33.43倍(2022年3月22日現在)です。
ファンダメンタルズでは、PBRこそ1.12倍ですが、PERはまだ割安圏内であると考えられます。

また同社は、2022年2月21日にスギホールディングスとの業務提携を発表しています。この提携により、同社はスギホールディングスからヘルスケア商品などを調達。取り扱い商材のさらなる拡充を図り、両社のPB商品の相互供給や、経営ノウハウの共有を通じた事業展開を推進するとしています。

今後もコロナ渦の動向や、予想通りの決算になるかなどを見定めながら、同社は3~5年間など長期的な投資が向いていると思います。
今後も、順当な売上や、利益を積み増すことが期待される同社の行方には要注目です。