日本特殊陶業株式会社(5334)
日本特殊陶業株式会社は、総合セラミックスの大手老舗企業です。
現在、世界的に半導体需給の逼迫が続き、かつてないほどの半導体生産設備投資の拡大が続いています。
そこで今回は、半導体関連部品が好調を極めている、日本特殊陶業株式会社を取り上げ、同社の株価や業績の将来性を詳しく分析していきます。
※東証の区分変更に伴い、同社は東証プライム市場へ変更となっています。
1. 会社概要
1936年にプラグメーカーとして創立した日本特殊陶業は、プラグの素子であるセラミックス開発技術をベースに、ニューセラミック製品の研究開発を開始。そしてセンサ、機械工具、半導体事業、バイオセラミックスによる医療関連と事業領域を拡大してきました。
また、2020年6月、同社は2040年の目指す姿として長期ビジョン“Beyond ceramics, eXceeding
imagination「”セラミックスのその先へ、想像のその先へ。」を発表し、セラミックスの領域を超えた挑戦が必要だとしています。
同社の沿革は、以下のとおりです。
1936年:日本特殊陶業(株)創立/資本金100万円
1949年:NTKニューセラミック製造開始/東京・名古屋両証券取引所に株式上場
1967年:セラミックICパッケージ製造開始
1973年:マレーシアNGKスパークプラグ(株)設立/自動車用温度センサ製造開始
1989年:友進工業(株)(韓国)資本参加/セラミックセンサ(株)設立
1991年:スパークプラグ生産累計50億個突破
2006年:インド特殊陶業(株)設立/プラグ国内生産累計100億個達成
2015年:(株)日本セラテックの全株式取得/Wells Vehicle Electronics, L.P.の事業取得
2018年:(株)シェアリングファクトリー設立
2. 事業の特徴
同社は、自動車用プラグ、排気系センサーで世界トップシェアを誇ります。また、電子部品や医療機器、燃料電池なども手掛けているのも特徴です。
また、4月には名古屋市中心部の新本社に移転し、M&A推進室の設置や、役割に応じた等級・報酬体系の人事制度へ刷新するなど心機一転、さらなる飛躍に拍車をかけています。
最新決算である2022年3月期決算短信(連結)の売上高は4,917億3,300万円。 ※2022年4月28日
事業セグメントの売上高・内容などは以下のとおりです。 ※2022年3月期決算短信(連結)
① 自動車関連
② セラミック
③ 新規事業
④ その他
① 自動車関連
車載向け半導体の供給不足や原材料価格の高騰が同社販売及び利益に影響を与えているものの、 原材料価格高騰分の価格転嫁などを行い、欧州及び北米を中心とした補修用製品の販売が好調に推移したことで業績をカバーしたようです。
これらの結果、売上収益は 3,877 億7,500万円(前連結会計年度比 14.5%増)、営業利益は743億4,200万円(前連結会計年度比 31.4%増)となっています。
② セラミック
自動車関連向け機械工具の出荷は回復基調であり、半導体製造装置用部品については、今後も拡大が予測される世界的な半導体需要に対応する旺盛な設備投資により同社の販売も堅調に推移しています。
これらの結果、売上収益は 954億6,100百万円(前連結会計年度比 19.2%増)、営業利益は146億8,300万円(前連結会計年度は2億 25 百万円の営業損失)となっています。
③ 新規事業
新規事業について売上収益は46億円(前連結会計年度比 0.5%増)、営業損失は 136億500万円(前連結会計年度は 95億円の営業損失)となっています。
④ その他
その他の事業について売上収益は 59億3,400百万円(前連結会計年度比 11.8%増)、営業利益は9,200万円 (前連結会計年度比 82.5%減)となっています。
3. 会社規模
会社規模は、以下のとおりです。
・時価総額:4,698億700万円 ※2022年5月2日終値ベース
・総資産:8,231億8,100万円 ※2022年3月期
・資本金:478億6,900万円 ※2022年3月期第3四半期
・売上高:4,917億3,300万円 ※2022年3月期
・従業員数:16,436名(連結) ※2022年3月期第3四半期
4. 業績
過去2年間の業績は次のとおりです。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 税前利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2019年3月 | 425,013 | 58,672 | 59,545 | 42,813 | 205.6 | 70 |
2020年3月 | 426,207 | 46,444 | 44,249 | 30.116 | 145.7 | 70 |
2021年3月期(2020年4月1日~2021年3月31日)の業績は、以下のとおり。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 税前利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2021年3月 | 427,546 | 47,389 | 52,001 | 38,367 | 188.6 | 60 |
最新決算である2022年3月期第3四半期決算(連結)は以下のとおり。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 税前利益 | 当期利益 | 1株益(円) |
---|---|---|---|---|---|
2022年3月 | 491,733 | 75,512 | 83,642 | 59,502 | 296.04 |
株価・株価指標は以下のとおりです。
・株価:2,301円(2022年5月2日終値)
・予想PER:6.67倍 ※2023年3月期の予想EPS344.83より算出
・実績PBR:0.91倍 ※BPS2,530.01(2022年3月期)
・予想配当利回り:6.00% ※2022年3月期138円予想
・年初来高値:2,308円 (2022年5月2日)
・年初来安値:1,737円 (2022年3月9日)
5. 財務分析
BS・PL・CS分析から、日本特殊陶業株式会社の現状を把握します。 2022年3月期決算の数字で検討します。
① BS分析
まずは、貸借対照表(Balance Sheet)です。見るべきポイントは以下の4つ
※2022年3月期第3四半期決算
・総資産 8,231億8,100万円
・自己資本比率 62.5%
・有利子負債 1,547億3,500万円 ※百万円以下切り捨て
・利益剰余金 3,759億6,800万円 ※百万円以下切り捨て
総資産を確認することで、その会社の規模がわかります。
一般的には自己資本比率が40%以上あれば倒産しにくいと言われています。
同社は有利子負債が1,547億3,500万円ですが、自己資本比率は62.5%と6割を超えています。
また実績PBRは0.91倍、利益剰余金も 3,759億6,800万円あります。 財務的に大きな問題はないと考えられます。
② PL分析
損益計算書(Profit and Loss Statement)は売上高・営業利益・当期純利益も確認しましょう。
今期(2022年3月期)の売上高を、2021年度3月期の売上高4,275億4,600万円と比較すると約15.0%減となっています。
③ CS分析
キャッシュフロー計算書(Cash Flow Statement)は、非常に重要な財務諸表です。
CSを見れば会社の現状が簡単にわかります。
※キャッシュフローの構造
・営業活動によるキャッシュフロー:営業活動で現金を生み出しているか否かがわかる
・投資活動によるキャッシュフロー:固定資産の売買・有価証券の売買などがわかる
・財務活動によるキャッシュフロー:資金調達の有無。借入金の実行・返済がわかる
<営業活動によるキャッシュ・フロー> ※2022年3月期決算
前連結会計年度から85億1,200万円増加の719億1,000万円となっています。これは、主として棚卸資産の増加により資金が減少した一方で、営業債権及びその他の債権の増加額が減少したこと、並びに税引前利益の増加により資金が増加したことによるものとしています。
本業で稼げているようです。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>
前連結会計年度は425 億2,300万円の支出に対し、102億3,400万円の収入となっています。これは、主として満期を迎えた有価証券の償還並びに政策保有株式の一部及び同社が保有していた株式会社日本エム・ディ・エムの株式を売却したことによるものとしています。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>
前連結会計年度は 281億6,600万円の収入に対し、538億2,700万円の支出となっています。これは、主として前連結会計年度においては長期借入による収入があった一方で、当連結会計年度においては借入金を返済したことによるものとしています。
現金及び現金同等物は、前期より330億6,400万円増加し1,725億8,500万円となっています。
6. トピック:未来を見据えた4つの事業領域
同社は、未来の社会課題解決のために4つの事業領域を特定しています。
① 環境エネルギー:無理なく、無駄のないエネルギー・環境社会へ
・センシング技術を利用し一次産業効率向上
・再生エネルギーの安定供給
② モビリティ:手軽で、楽しく、便利な移動体社会へ
・ライフスタイルに合わせた メンテナンスサービスの提供
・セラミック部品による電費向上
・特殊ニーズにフィットするMaasサービスの提供
③ 医療:身近で手軽に、世界中の人々に先端医療を提供できる社会へ
・セラミック材を応用した人工骨派生製品の提供
・超音波技術による非侵襲診断・治療・予防機器やサービスの提供
④ 情報通信:仮想と現実がつながる高速通信社会へ
・高速通信を支えるインフラ部品の提供
2023年3月期の業績予想は、以下のとおりです。
年月 | 売上高 | 営業利益 | 税前利益 | 当期利益 | 1株益(円) | 1株配(円) |
---|---|---|---|---|---|---|
2023年3月 | 570,500 | 96,000 | 97,800 | 70,100 | 344.83 | 138 |
7. まとめ
今回は日本特殊陶業株式会社を分析しました。
株価は2,301円(2022年5月2日現在)で時価総額が4,698億700万円(2022年5月2日現在)と比較的値動きは重たい銘柄です。
実績PBRは0.91倍(2022年5月2日現在)、同社の予想PERは6617倍(2022年5月2日現在)また、東証一部(※2022年4月4日から東証は3区分に変更)の硝子・土石製品における平均PERは11.73倍(2022年4月1日現在)です。
ファンダメンタルズでは、PBR、PERともにまだ割安圏内であると考えられます。
また同社は、来期2023年3月期の営業利益予想も、前期比27%増となる960億円を見込んでいます。予想通りなれば、2期連続で過去最高利益更新となります。
ただ、今後も売上や予想通りの決算になるかなどを見定めていく必要もあるため、同社は3~5年間など長期的な投資が向いていると思います。
今後も、世界的な半導体設備等の需要を背景に、強烈な追い風が吹く同社の行方には要注目です。